南国に死す 14
父は言いました。
今蓮池権守が軍勢を集めている。
この軍勢は夜須一族、そしてかれらが担ごうとしている源希義を討つためのもの。
この軍の囲みを打ち破って五郎ー源希義が生き延びることができれば五郎に運がある。
運がなければ五郎は命を落とすのみ。
運有るものならば我が家の命運を五郎に託すが、運なくば五郎をみすてるのみである。
父の言葉は余にも非情でした。
今でも恨み言を言いたい気持ちがあります。
けれども、その時私が思ったのは
あの人に「生きていて欲しい」
ただそれだけでした。
このまま黙ってここに幽閉されていてもあの人は死を待つばかりです。
大軍を率いる蓮池権守さまに我が家はとても太刀打ちできません。
あの人が生き延びるためにはあの人が夜須一族の元へ入り込むしか方策はありませんでした。
それならばいっそのこと万に一つの運を掴んでもらう可能性にかけるしかありませんでした。
確実に逃げ延びるには夜の闇にまぎれてすばやく年越山を越えること。その為には下手に供をつけることも出来ませんでした。
婿であるあの人を非情な賭けに放り出した父もさすがに孫は不憫に思えたのか
太郎と次郎は信用できる者へと密かに匿うように命じこの館から逃しました。
万策を整えてから、私は奥座敷に向かいあの人に逃げるように言いました。
あの人は固く私を抱きしめました。
最後まで私と子のことを案じてくれました。
私の話を分かってくれたあの人はそっとから館を抜けだして夜須行宗が陣を張っている年越山の向こうを目指しました。
時が過ぎるのがもどかしかったのを覚えています。
ひたすら私はあの人の無事を祈っていました。
けれども、その夜のうちにあの人が討ち取られたという知らせが私の元に届いてしまったのです。
私は即座に髪を落としました。
父はがっくりと膝を抱えました。
以仁王様の令旨を受けた者でありそして坂東の源頼朝の弟であるあの人を旗頭にして土佐を手中に収め、その旗頭の舅という立場に立って、自分の兄に成り代わって平田一族の主導権を取り、婿を押し立てていずれは南海に乗り出すという父の野望も砕け散ったのです。
あの人を討ち取った蓮池権守さまと伯父は余勢を駆って夜須一族に攻撃をしかけました。しかし夜須行宗殿は一族を引きつれ間一髪海上に逃れいずこともなく去っていったのです。
土佐に平穏が戻りました。
あの人の死と引き換えに・・・・
国衙の実権を握る蓮池権守さまに逆らうものはもういませんでした。
その蓮池権守さまの敵となってしまったあの人の遺骸は首は都に送られ胴は殺されたその場に置き去りにされたまま何日も風雨にさらされていました。
私は遺骸を引き取りに行きたいを願いましたが父に止められました。
希義の舅だったということで国衙から睨まれている父はこれ以上蓮池権守さまを刺激したくなかったのでしょう。
父の立場が分からないわけではありません。
けれども、私はあの人の遺骸が放置されていることに我慢ができなかったのです。
私は父の目を盗み年越山へと向かいました。
どこであの人が命を落としたのかは分かりませんでした。当然遺骸のある場所を知ろうはずもありません。
けれども探さずにはいられませんでした。
何日か山中を彷徨っているうちに見覚えのある僧に行き会いました。
かねてからあの人と懇意にしていた琳猷上人様でした。
上人様は私の姿を見つけると密かにご自分の寺へ私を導いてくださいました。
上人さまは片隅の目立たないところにかすかにひそやかに供養されている塔婆のところへご案内下さいました。
「五郎様はここに眠っておいでです。」
上人様は厳かにおっしゃられました。
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今蓮池権守が軍勢を集めている。
この軍勢は夜須一族、そしてかれらが担ごうとしている源希義を討つためのもの。
この軍の囲みを打ち破って五郎ー源希義が生き延びることができれば五郎に運がある。
運がなければ五郎は命を落とすのみ。
運有るものならば我が家の命運を五郎に託すが、運なくば五郎をみすてるのみである。
父の言葉は余にも非情でした。
今でも恨み言を言いたい気持ちがあります。
けれども、その時私が思ったのは
あの人に「生きていて欲しい」
ただそれだけでした。
このまま黙ってここに幽閉されていてもあの人は死を待つばかりです。
大軍を率いる蓮池権守さまに我が家はとても太刀打ちできません。
あの人が生き延びるためにはあの人が夜須一族の元へ入り込むしか方策はありませんでした。
それならばいっそのこと万に一つの運を掴んでもらう可能性にかけるしかありませんでした。
確実に逃げ延びるには夜の闇にまぎれてすばやく年越山を越えること。その為には下手に供をつけることも出来ませんでした。
婿であるあの人を非情な賭けに放り出した父もさすがに孫は不憫に思えたのか
太郎と次郎は信用できる者へと密かに匿うように命じこの館から逃しました。
万策を整えてから、私は奥座敷に向かいあの人に逃げるように言いました。
あの人は固く私を抱きしめました。
最後まで私と子のことを案じてくれました。
私の話を分かってくれたあの人はそっとから館を抜けだして夜須行宗が陣を張っている年越山の向こうを目指しました。
時が過ぎるのがもどかしかったのを覚えています。
ひたすら私はあの人の無事を祈っていました。
けれども、その夜のうちにあの人が討ち取られたという知らせが私の元に届いてしまったのです。
私は即座に髪を落としました。
父はがっくりと膝を抱えました。
以仁王様の令旨を受けた者でありそして坂東の源頼朝の弟であるあの人を旗頭にして土佐を手中に収め、その旗頭の舅という立場に立って、自分の兄に成り代わって平田一族の主導権を取り、婿を押し立てていずれは南海に乗り出すという父の野望も砕け散ったのです。
あの人を討ち取った蓮池権守さまと伯父は余勢を駆って夜須一族に攻撃をしかけました。しかし夜須行宗殿は一族を引きつれ間一髪海上に逃れいずこともなく去っていったのです。
土佐に平穏が戻りました。
あの人の死と引き換えに・・・・
国衙の実権を握る蓮池権守さまに逆らうものはもういませんでした。
その蓮池権守さまの敵となってしまったあの人の遺骸は首は都に送られ胴は殺されたその場に置き去りにされたまま何日も風雨にさらされていました。
私は遺骸を引き取りに行きたいを願いましたが父に止められました。
希義の舅だったということで国衙から睨まれている父はこれ以上蓮池権守さまを刺激したくなかったのでしょう。
父の立場が分からないわけではありません。
けれども、私はあの人の遺骸が放置されていることに我慢ができなかったのです。
私は父の目を盗み年越山へと向かいました。
どこであの人が命を落としたのかは分かりませんでした。当然遺骸のある場所を知ろうはずもありません。
けれども探さずにはいられませんでした。
何日か山中を彷徨っているうちに見覚えのある僧に行き会いました。
かねてからあの人と懇意にしていた琳猷上人様でした。
上人様は私の姿を見つけると密かにご自分の寺へ私を導いてくださいました。
上人さまは片隅の目立たないところにかすかにひそやかに供養されている塔婆のところへご案内下さいました。
「五郎様はここに眠っておいでです。」
上人様は厳かにおっしゃられました。
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