南国に死す 13

治承四年八月。
あの人の兄上、伊豆に流罪になっていた源頼朝様が挙兵なさいました。

その直後、都から知らせがきました。
あの人の姉上からです。
手紙には頼朝さまの挙兵の知らせと共に「逃げなさい」と書かれていました。

同じ頃、かねてからあの人が帰依していた琳猷上人さまからも身の振り方についてお話が来るようになっていました。上人さまも逃亡を進めている口調でした。
しかし、あの人はぽつりと言いました「どこへ逃げばよいのだ」と。

ここであの人が土佐から逃亡すれば、兄上に同調したものとして追っ手から命を奪われてしまうというのです。
それに土佐から出るためには船が必要です。
流人であるあの人には船を出すことはできません。
うまく土佐から逃れられたとして、どこへ行くべきだったのでしょうか。
行くとしたら東国だったのでしょうが、東国で挙兵なされたとはいえ、東国において兄上の頼朝さまもまた敵に囲まれていたのです。
兄上様がこの先ご無事でいられるかの保証すらその頃はまったくありませんでした。

こうしているうちに、事態は次々と悪化していきます。
あの人の周りには国衙からの監視の目が強まります。
そしてその監視の目を掻い潜るかのように夜須行宗殿の使いがあの人のもとへ次々と現れます。
夜須行宗殿は土佐の国衙の実権を握る蓮池権守さまを追い落とす旗印として、あの人を担ごうとしていたようです。

やがて、伊豆で挙兵した兄上さまが一旦は戦に敗北したもののその後勢いを盛り返し坂東を従えたとの報がここ土佐へももたらされました。

すると今度は父があの人を自分の館の奥座敷に幽閉してしまいました。
私も子供達もあの人に会うことを禁じられました。
父は言います。
「蓮池権守さまが、五郎を殺せと言ってきている。」
と。

その言葉に私は青ざめました。

あの人と一緒になるということはこのようなことになることも覚悟せねばならなかったとは・・・・

幸い父は蓮池権守さまの言葉をうまくかわしていてくれました。
けれどもあの人の命が風前の灯火であることは変わりありません。

不安な日を過ごす中、ある日私は父に呼ばれました。
「五郎の運を試してみよう。」
と父は意外な事を言いました。

熊野勢力の支援をとりつけた夜須一族の活動が活発になっていました。
そのことに蓮池権守さまが苛立っておられました。
勢いづく夜須一族が反乱の旗印とてして、高倉宮以仁王さまの令旨をうけ、なおかつ坂東で独自の勢力を築きつつある源頼朝の同母の弟であるあの人ー源希義を担ぎ上げたとしたら
土佐の勢力地図が大きく変わることになります。
即ち、国衙の実権を握る蓮池権守さまはその座を追われ、夜須行宗殿が土佐の実力者となるのです。

父は言います。
されに上手くいけば南海の海は熊野と手を結んだ夜須のものになると。

「形の上では五郎がその南海の王者となろう。さすれば我は南海の王者の舅となる。
だが王者となるには運がいる。運無きものは王者にはなれぬ。
そこでじゃ、ここで五郎の運を試してみることにする。」

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テーマ : 歴史小説 - ジャンル : 小説・文学

Tag : 頼朝 流人 土佐 希義 伊豆 夜須 熊野 以仁王

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